SSブログ

マニアック狩猟団〜夢幻十夜:02 [【MH3】怪物狩猟人・備忘録]

02:ハンターと砂漠クジラ


 こんな人に会った。


 砂漠のただ中に存在するハンターの狩猟中継都市ロックラック。
砂塵を蹴って帆船が行き交い、空には遥か遠隔地を目指す飛行船がハンターたちを運ぶ。
 今、ロックラックの街は砂嵐に包まれていた。
月に1度程度の確率で、この街は砂嵐に襲われる。
巻き上がる砂は人々の交易を阻害し、多くの民を引き蘢らせる事になる。
が、それは同時に街へ大きな恩恵をもたらすものなのだ。
 連綿と紡がれる街の記録。
古代よりこの砂漠には巨大な“龍”が住み、砂嵐の時にだけ現れて大いなる恵みを街にもたらす。


キース(以下キ):こんばんはー、ご一緒して良いですか?

イエハブ〔仮名〕(以下イ):こんばんは、鯨を狩りに行きますがよろしいですかな?

キ:峯山龍ジエン・モーランですね。了解しました!

イ:その答えを待っていた。あの白い砂鯨めは、わしの片目と片足を奪っていった憎き仇!

キ:ははぁ。どうやら私はメルヴィルの小説『白鯨』※1の世界に迷い込んだ、というわけですね、船長。

イ:根も葉もないが、そういう事でよろしくじゃ!

キ:はいはい、じゃあ私の事はキィシュマルとお呼び下さい。※2


 ハンター4人で砂漠を渡る狩猟用帆船に乗り込む。
砂の海原から巨大な2本の牙が突出し、峯山龍ジエン・モーランがその雄大な姿を見せる。
序盤はバリスタ弾を集めたり、大砲を撃ったりなど地味に動きつつ隙を見てはチャット。

012.jpg


キ:船長! モビーディック※3が右舷に出現っ。

イ:おおう、それではもろに『白鯨』なのでジエン・モーランでおk。わしの名もエイハブじゃなくてイエハブじゃし!

キ:失礼しました、まがいものの船長。ところで『白鯨』って船長と鯨の対決ばかりが有名ですけど、前半から中盤までほとんど鯨の蘊蓄なんですよねー。

イ:古典小説じゃからのー。特に初っ端から盛り上げようという「つかみ」の発想などなかったんじゃのぉ。人名などを分析すると旧約聖書からの拝借や出典があったりするし、捕鯨がさかんだった時代らしく乱獲に対する批判なども込めてあって、かなり計算された小説だとわかる。

キ:ふむふむ。そう言えば、こうした鯨のような巨大生物が登場する小説は多いですね。私が憶えているだけでも3つ4つ浮かびます。

イ:ほほう、たとえば?

キ:そうですね、まずはロバート・F・ヤング『ジョナサンと宇宙クジラ』※4などは?

イ:それもけっこう古いSF小説ですな。割りと明るい話だったかのぉ。

キ:一番外せないのは、ブルース・スターリング『塵クジラの海』※5ですね。

イ:おお、渋いのを知っておるのぉ。SFニューウェーブの若手旗手にして今やサイバーパンク※6の大御所といった感じの作家が、自分で言うところの若気の至りで書いた初の長編小説じゃったかな。

キ:本人はファンタジー小説を見下すようなポーズをとっていた、超硬派なSF作家という位置づけに収まってましたからねー(笑)。まさか処女長編でファンタジーを書いてたんなて言い出せなかったんでしょうねー。

イ:『塵クジラの海』の場合は、鯨から希少な麻薬が取れるという設定じゃったかな?

キ:そうですね。ジャンキー仲間の代表として蟹工船みたいなノリの狩猟船に料理人として乗り込む事になった主人公が砂にまみれた冒険と異質な恋の果て、帰還する話でしたね。オチ的になんとも退廃的で喪失感の残る寂しげな締め方だったので印象的です。決して恥じるような作品じゃないと思うんですけどねー(笑)

イ:時代が許さなかったのじゃのぅw

キ:ええ。他にもアーシュラ・K・ル=グィンの短編に鯨のような生物の密猟を監視する主人公の話などがありましたね。大きな恵みを得られる生き物を巡る正義と葛藤というテーマは欧米ではかなりポピュラーなようです。


 高速で砂上を走る狩猟船上での戦いが15分ほど経った頃、舞台は決戦ステージに移行する。
砂漠の彼方からジエン・モーランの巨影が迫り来る。


イ:ところでまだ大本命が出ておらんような。

キ:む、たぶん船長の言いたい作品はわかります。

イ:ほほうw

キ:フランク・ハーバート《デューン》シリーズ※7ですね。

イ:その通り! わしはの。映画『砂の惑星』※8が大好きでの。

キ:デヴィッド・リンチ監督がやりたい放題やった映画※9ですからね。未完っぽい終わり方で原作とはかけ離れてますけど、耽美で陰湿なリンチ作品の雰囲気の良さは光っていると思いますよ。

イ:そうそう。ダークでありゴシックでありSFな雰囲気がたまらんのじゃよ。あれに出て来る巨大ミミズがいたじゃろ?

キ:ああ、サンドワーム※10ですねー。鯨とは似ても似つかないですけど、砂漠の民に恩恵をもたらす設定はジエン・モーランと合致しますね。あの砂漠からズドーーーン!と現れたり潜り込む映像は、明らかにジエン・モーランも影響を受けていますしね。


 ジエン・モーランの龍牙を2本とも折り、斜めに向きを変えて設置してある撃龍槍を当ててBGMが勝利っぽい音楽になったものの、時間切れで「撃退」となる。
峯山龍は砂を豪快に掻いて去っていった。
イエハブ船長は非常に悔しがっていた。
 その後、何度か挑戦するもすべて「撃退」
完全に息の根を止める「討伐」とはならなかった。
 キースを含め、他の戦士ともども休息を必要としていた。
他の2名が去り、装備品を片付けていたキースも船長に別れを告げようと酒場に戻った。
見れば船長は1人でクエストを受託して出発しようとしている。


キ:せ、船長。たった1人で何ができます! あの砂鯨を相手に無茶です。仲間を募ってください!

イ:ヤツを狩るのが、わし。ヤツを狩らないわしなど、わしではない。少なくとも、この砂嵐の間は、な……。元気でな。おやすみ、キィシュマル!


 船長は一人で出発していった。
誰もいなくなった発着所前で、キースはひとり佇み、深々と頭を下げ続けたのだった。

— — — — — — — — — — — — — — — —
※1:『白鯨』……ハーマン・メルヴィル(1819年生ー1891年没)が1851年に発表した海洋小説。原題は「Moby-Dick」 前半〜中盤は衒学的な航海術とクジラのウンチクで占められており、雑学小説的側面もある。当時のアメリカはこうした海洋小説が流行っていたらしい。
 ちなみに捕鯨船ピークォド号に乗り組む、猪突猛進なエイハブ船長の諌め役で一等航海士のスターバックという兄貴がいるのだが、彼の名前が大手コーヒー店チェーンの『スターバックス』の語源である(ホントに)。

※2:私の事はキィシュマルとお呼び下さい……『白鯨』の物語の一部始終を見る事になる主人公の若者の名前がイシュマル。物語の冒頭の台詞「Call me Ishmael」より。キース+イシュマルというわけです。

※3:モビーディック……『白鯨』に登場する凶暴なマッコウクジラ。どうも小説内の描写によると、全身が白いクジラというわけではないらしい。斑に白い部分があるという事みたいです。

※4:『ジョナサンと宇宙クジラ』……ロバート・フランクリン・ヤング(1915年生—1986年没)のロマンと愛の溢れるSF小説。作品の多くが短編。癒されたい人にお勧めな本です。

※5:『塵クジラの海』……人生に刺激を求めるジョンは、塵に覆われた異星の海に棲む”塵クジラ”から採取される麻薬〈フレア〉を探す旅に出た。コックとして乗りこんだ塵クジラ漁船で、翼を持つ異星人女性ダルーサと出会ったジョン。ふたりは激しく惹かれ合っていくが……。塵の海での冒険を華麗に描き上げた、スターリング幻の処女長篇
(ハヤカワオンラインのあらすじより引用)
 ブルース・スターリング(1954年生—)が大学生時代に書き上げた作品。1980年代のSFのサイバーパンク運動の中心的人物で、大の日本通で知られる。日本を舞台にした小説作品も多い。

※6:サイバーパンク……1980年代に成立・流行したサイエンス・フィクションのサブジャンル、もしくは特定の運動、思想をさす。代表作としては、ウィリアム・ギブスンの小説『ニューロマンサー』などが挙げられる。(Wikipedia「サイバーパンク」の頁より引用)
 人体改造的な概念や、ネットワーク構造に取り込まれる人類の社会とそれへの反抗などなど、かなり硬派で反社会的なテーマがよく採用されるジャンル。カテゴリとしてはかなり曖昧ではある。なんかそういう感じという事で自分の中でジャンル分けするのでOKみたいです。
 フィリップ・k・ディックの代表的作品『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の映画版『ブレードランナー』は映像面でこうしたサイバーパンクの近未来的で退廃したイメージを一般の人に植え付けたと言える。

※7:《デューン》シリーズ……フランク・ハーバートの代表的SFシリーズの名前。日本では『デューン/砂の惑星』というタイトルが馴染みがある感じですね。
「砂に覆われ巨大な虫が支配する荒涼の惑星アラキス、通称デューンを舞台に、宇宙を支配する力を持つメランジと呼ばれるスパイスを巡る争いと、救世主一族の革命と世界の混迷を軸にした壮大なドラマが展開される」
(Wikipediaのデューンの頁より引用)
 当時としては革新的なテーマ「生態学=エコロジー」があり話題となったという。設定の細かい部分は、映画『スターウォーズ』の世界観にも影響を与えたようですよ。

※8:映画『砂の惑星』……製作=ディノ・デ・ラウレンティスによる。公開は1984年。あまりにも壮大で勇壮で複雑すぎる原作に対して、2時間程度の映像にまとめる映画では、全然まったく尺が足らず、長い間、映画化の話が出てはポシャっていたため映像化不可能と言われていた。

※9:デヴィッド・リンチ監督がやりたい放題やった映画……相次ぐ監督降板と予算削減で現場では諦めムードが支配しており、そこにつけこんだリンチ監督は好き勝手にデザイン改変を行う。結果、耽美&グロテスク趣味に走り過ぎて一種独特の暗黒の異世界が出来上がる。ストーリーもやはり尺が足らず、救世主一族の血筋が覚醒して世界に革命が!という原作世界の一端を垣間見せた程度でまとめてられているため、原作ファンはもとより原作者フランク・ハーバートにも嫌がられている。私はこういうのもアリ的にOKなのですが……。映像的に面白いしね。最後は尻切れとんぼで、少年漫画雑誌の打ち切り的終わり方。まあ、リンチ監督はよくやったと思う(←偉そうに!) 主人公役の、若かりしカイル・マクラクランはカッコイイです。

※10:サンドワーム……砂漠の中から現れる巨大生物のイメージを決定付けた映画『砂の惑星』に出て来る超巨大甲殻ミミズ。影響を受けた映画や映像は数知れず。スーパーファミコンでオリジナルシューティングゲームとして出たコナミの「AXERAY」(アクスレイ)では、2面火山地帯の疑似3Dステージでほぼそのまんまのデザインのサンドワームが出て来て、私の兄弟はそれを見るなり「まんまぢゃん!」と揃って叫んだのは、今ではいい思い出。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。